人間の本性は悪なのか? #477
『ゆる言語学ラジオ』第477回では、書籍『戦争における人殺しの心理学』を手がかりに、第二次世界大戦の兵士の発砲率がわずか15〜20%だったという奇妙なデータと、ベトナム戦争でそれが90%以上へ跳ね上がった理由を掘り下げる。後半では、この「人を殺す距離」の心理学を現代のドローン攻撃やSNSでの誹謗中傷に接続し、大山顕の議論も交えて語られる。
この回が答えていること
第二次世界大戦の兵士はなぜ敵に向かって発砲しなかったのか?
第二次世界大戦の兵士が発砲しなかったのは、逃げていたからではなく、同種の人間を殺すことへの精神的抵抗が非常に強かったためで、負傷者救出など発砲より危険な任務には自ら進んで従事していた。
ゲティスバーグの戦場で回収された銃の90%が未発砲だったというデータは何を意味するのか?
90%の銃が未発砲だったというデータは、「人間の本性は暴力的」という通説とは逆に、同種を殺すことに対して人間が強い精神的抵抗を持つことを示すものだと本文では説明されている。
武器と標的の距離は、人を殺すことへの心理的抵抗にどう影響するのか?
武器と標的の距離は心理的抵抗の大きさを左右し、殺す相手との距離が近いほど精神的負荷は大きく、ライフルや爆撃のように距離が遠くなるほど負荷は小さくトラウマも負いにくくなる。
ベトナム戦争でアメリカ軍の発砲率が90%以上に跳ね上がったのはなぜか?
ベトナム戦争で発砲率が急増したのは、人型の的が一瞬現れては倒れる訓練に変え、命中に即座の報酬・失敗に罰を与えることで、考える前に反射的に撃つ能力をパブロフ型条件付けで鍛えたため。
ドローン攻撃とSNSでの誹謗中傷はどのような構造で似ているのか?
ドローン攻撃もSNSの誹謗中傷も、対面なら見える相手の顔や表情が見えないまま、離れた場所から一方的に攻撃や誹謗中傷を加えられるという、遠隔・非対面によって心理的抵抗が下がる構造で似ている。
撃たない兵士という奇妙なデータ
ゲティスバーグの戦場から回収された27,575丁のマスケット銃のうち、90%は弾が装填されたまま、つまり一度も撃たれていなかった。ナポレオン戦争でも兵士がわざと的を外していた例が報告され、当時の発射速度から理論上100人は倒せる計算のところ、実際は1分間に1〜2人しか倒せていなかったという。第二次世界大戦でもアメリカのライフル兵の発砲率はわずか15〜20%。発砲しない兵士は逃げていたわけではなく、負傷者の救出や弾薬運搬など、発砲より危険な任務には自ら進んで従事していた。深井はこのデータを紹介し、「人間の本性は暴力的」という通説とは逆に、同種を殺すことへの精神的抵抗の強さを示すものだと語った。
距離が生み出す「殺せない」心理
本によれば、殺す相手との距離が近いほど精神的負荷は大きく、遠いほど小さい。刀や刃物より槍が中世まで長く使われたのも、単なる長さの有利さ以上に「突き刺すのではなく払っている」という言い訳が成立する距離を作れたためという説が紹介された。マケドニアの重装歩兵の長槍も同様に解釈できるという。ライフルのような中距離の武器になると相手の表情や声が届かなくなり、さらにミサイルや爆撃のような長距離になるほど精神的トラウマを負いにくい。直接手を下す陸上戦の兵士に比べ、水兵は精神疾患になりにくいというデータも紹介された。
ベトナム戦争と条件付けによる発砲率の急増
ベトナム戦争でアメリカ軍の発砲率が90%以上に跳ね上がった理由は、パブロフ型の条件付け訓練だった。丸い的をのんびり撃つ訓練から、人型のポップアップ標的が一瞬現れては倒れる訓練に変え、命中には即座の報酬、失敗には罰を与えることで、考える前に反射的に撃つ能力を鍛えた。結果、ベトナムでは敵兵一人を殺すのに平均5万発の弾薬が使われた一方、条件付け訓練を受けた狙撃兵はわずか1.39発で仕留めたという。だが大義の薄い戦争、帰還後の反戦世論、ゲリラ戦下で民間人を巻き込んだ経験が重なり、多くの帰還兵はPTSDに苦しんだ。
ドローン攻撃とSNS誹謗中傷の共通構造
現代の遠隔兵器であるドローンも同じ構造を持つ。『ドローンの哲学』によれば、操作者は都市に暮らし、仕事後は普通に飲みに行き家族と過ごす。深井はこれをSNSの誹謗中傷になぞらえた。写真評論家・大山顕が指摘するように、対面なら疲れる罵倒もスマホを挟むと相手の顔が見えず一方的に浴びせられる。堀元は、批判した相手にも対面で態度を変えない例として、クイズノック卒業生こうちゃんへの批評を本人にも直接伝えたエピソードや、「例え人文主義」への批判者コミネヒズミがロフトのイベントに単身乗り込んだ話を挙げた。
この回の要点
- 第二次大戦の兵士の発砲率はわずか15〜20%で、多くが同種を殺すことへ強い抵抗を示した。
- 距離が心理的抵抗を左右し、槍やライフルは殺す相手を遠ざけることで抵抗を減らしてきた。
- ベトナム戦争は条件付け訓練で発砲率を90%超に引き上げたが、帰還兵の心的外傷を増やした。
この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。正確な内容は本編をお聴きください。