#78 「同僚」が流行る時代
文芸評論家の三宅花布が「同僚が流行る時代」をテーマに、『夜明けのすべて』『ベイビーわるきゅーれ』『ちいかわ』などを例に、「普段はソロ、たまたま仕事で一緒になる」関係性がなぜ現代フィクションの萌えの中心を占めるようになったかを考察する。リスナーからは職場と友達の境界をめぐる実体験が多数届き、同僚コンテンツ流行の源流として2016年の映画『シン・ゴジラ』とドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を挙げる。
この回が答えていること
なぜ今フィクションで「同僚」という関係性の萌えが急増しているのか?
恋人ほど感情的に重くなく、友人ほど繊細に気を遣わなくてもよい「たまたま仕事で一緒になった人」という距離感が現代人にとってちょうどよいユートピア性を持つから。普段ソロで活動し、プロジェクト終了後に解散するという一時性と偶発性(「たまたま性」)が萌えの核心だと三宅は分析する。
三宅が「同僚萌えコンテンツ」の代表例として挙げる作品にはどのようなものがあるか?
映画『夜明けのすべて』(松村北斗・上白石萌音)、映画シリーズ『ベイビーわるきゅーれ』(高石あかり・伊澤彩織)、漫画・アニメ『ちいかわ』、朝ドラ『虎に翼』の米さんと轟コンビなど多数。恋愛リアリティショーがコーヒー販売などの「仕事」をあえて絡める手法も同僚感でユートピア性を高める演出だと指摘する。
同僚コンテンツが流行した源流はどのコンテンツだと三宅は考えているか?
2016年公開の映画『シン・ゴジラ』。各分野のソロプレイヤーが緊急招集されてプロジェクトをこなし解散する構造が「同僚萌え」の雛形になったと三宅は主張する。同年放送のTBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』も「仕事なら踏み込める」関係性を描いた点で同じ流れに位置づける。
現実の職場と友達の境界についてリスナーはどのような経験を持っているか?
「利害関係があると友達と思えない」「Xで相互フォローになったら友達」という基準が届いた。北野武映画『キッズリターン』の台詞で社内に20年来の友人ができた体験談や、大阪転勤後にカフェでダブルワークを始めて友人圏を広げたエピソードが紹介され、バイトが大人の友達形成の場になり得ると論じた。
今回の推薦図書はどんな作品で、なぜ同僚コンテンツとして紹介されたのか?
吉永文作の漫画『タレント』(女性漫画誌連載中、1巻発売中)。芸能界を舞台に、同じドラマに出演した俳優たちが一時的に交わることで生まれる同僚的関係性を描く。女性同士の関係性の描写も秀逸で、三宅は「1巻しか出ていないのに意味わからないくらい面白い」と絶賛した。
「同僚萌え」の正体——「たまたま性」という新しい萌え軸
三宅花布が今回取り上げたのは、フィクションの中で「同僚」という関係性の萌えが急増しているという現象だ。ここでいう「同僚」とは会社の上司・部下関係や固定コンビではない。「普段はソロで活動している者どうしが、たまたまひとつのプロジェクトで出会い、それが終われば解散する」という一時性・偶発性を帯びた関係性を指す。
恋人ほど感情的に重くなく、友人ほど繊細に気を遣わなくてもよい。仕事という文脈を挟むと「ずけずけ心に入り込んでいっても許される」雰囲気が生まれ、普段は話せない本音すら打ち明けられる。三宅はこの絶妙な距離感が、現代人が理想を投影しやすいユートピア性と重なると指摘する。『ちいかわ』に試験や派遣仕事でたまたま鉢合わせるキャラクターたちの「職場仲間」感を見出すのも、その延長線上だ。
代表的な同僚コンテンツを読み解く
三宅が挙げた作品は幅広い。映画『夜明けのすべて』(原作・瀬尾まいこ、松村北斗・上白石萌音主演)は、たまたま同じ職場になった二人が「友達にも恋人にも言えない悩み」をなぜか打ち明け合う物語。会社を辞める可能性もある「一時期だけ一緒にいた職場」という儚さが、こんな職場があったらという理想を喚起していると評した。
三宅が「2010〜20年代最強の萌え職場コンテンツ」と称するのが映画シリーズ『ベイビーわるきゅーれ』(高石あかり・伊澤彩織)。高石が朝ドラ出演前に手がけた本格アクション映画で、女性殺し屋の二人がお金に困ってシェアハウスすることになるという「たまたま性」がコンビ(千里と真広、通称「ちさまひ」)の関係性を際立たせている。最強なのに相棒関係に必然性がないという設定が萌えの核だという。
NHK朝ドラ『虎に翼』の米さんと轟コンビ、魔女っ子ものアニメ「前橋ビッチーズ」(花屋を一緒に営む仲間という設定)なども言及。さらに恋愛リアリティショーがコーヒー販売などの「仕事」をあえて絡める演出についても、「どう考えてもコーヒー売らなくていいのになぜか仕事を挟むことでユートピア性が増す」と分析した。普段はソロ活動をしている二人がゲストとともにご飯を食べながら話すTVerのバラエティ番組も、同じ文脈で紹介された。
流行の源流——2016年の「シン・ゴジラ」と「逃げ恥」
三宅は同僚コンテンツが「関係性の萌え」として意識的に語られるようになった転換点として2016年を挙げる。映画『シン・ゴジラ』は各分野のソロ研究者や一匹狼が緊急招集されてプロジェクトをこなし解散するという構造が鮮烈な印象を残した。「普段バラバラの人たちが、今だけ一緒」という感覚に当時の観客が痺れたのだと三宅は振り返る。同年のTBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』も「仕事なら踏み込んでいい」という関係性を描き、同じ流れを後押しした。いつか解散するかもしれない——その有限性が「思いたいことを言えるライセンス」になっているのではないかと考察する。
リスナーが語る職場と友達の境界
リスナーからは「利害関係があると友達とは思えない」という切実な声が届いた。三宅はそれに対し、同僚萌えコンテンツは現実には実現しにくいユートピアだからこそ人々が憧れるのだと応じた。「Xで相互フォローになっていたら友達」という独自の基準を報告したリスナーのエピソードは、匿名文化のXが「フォロワー」という言葉に親しみのニュアンスを持たせている点として面白がられた。
岡山のリスナーからは、休憩室で北野武監督映画『キッズリターン』の台詞「まだ始まってもいねえよ」を口にしたら同僚が反応し、以来20年近くにわたって映画を一緒に観続けている唯一の社内友人になったという話が届いた。近々映画『我々は宇宙人』を二人で観に行く予定とのことで、三宅はバカリズムのドラマのように奇跡的なエピソードだと感嘆した。
大阪に転勤した社会人2年目のリスナーが、コミュニティを広げるためにカフェのダブルワークを始め、現役大学生やフリーターと知り合い、仕事終わりや休日にご飯へ行く仲になったというエピソードも紹介。「同じ職場という共通の話題が最初からある」バイト仲間の話に、三宅は「大人こそダブルワークで友達ができる、タイミー的な大人のキッザニア」という視点を見出した。
推薦図書——漫画『タレント』(吉永文)
今回の推薦は吉永文作の漫画『タレント』(女性漫画誌連載中、1巻発売中)。芸能界を舞台に、同じドラマに出演した俳優たちが一時的に交わることで生まれる同僚的関係性を描く。普段はソロ俳優として活動しながら共演によってたまたまつながる——まさに今回のテーマそのものの構造を持つ作品だ。女性同士の関係性の描写も見どころで、三宅は「1巻しか出ていないのに意味わからないくらい面白い」と絶賛した。
この回の要点
- 「同僚萌え」の核心は「普段はソロ、たまたま一緒になり、いつか解散する」という一時性と偶発性にあり、恋人でも友達でもない絶妙な距離感がユートピア性を生む。
- 同僚コンテンツ流行の源流は2016年の映画『シン・ゴジラ』とドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』だと三宅は位置づける。
- 大人がダブルワーク(副業バイト)を始めることで、普段の会社員生活では出会わない人たちと友人関係を築けるという可能性をリスナー体験談が示した。
この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。正確な内容は本編をお聴きください。