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ゆる民俗学ラジオ · 教育

おばけの方言、多様すぎない?【おたより回】#201

2026-10-18 · 37分 · 3分で読める

長崎の妖怪「アモジョ」が正体不明のまま世代を越えて伝わっていたというお便りをきっかけに、全国のお化けの呼び名を方言周圏論で読み解く。さらに滋賀県近江八幡市の謎の木製墓標群「三昧」の正体、昭和38年刊の毒舌な墓相学本、そして現代の小集団に宿るフォークロア「会社民俗学」まで、4通のお便りをめぐって話が広がった回。

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この回が答えていること

  • 長崎の「アモジョ」とはどのような存在で、どうやって世代を越えて伝わったのか?

    長崎で化け物・妖怪を意味する幼児語。祖父が長崎出身だったカジさんの家族が、正体を知らないまま「脅し言葉」として父から孫へ口頭で伝え続けた結果、意味不明のまま世代を越えて定着していた。

  • 日本各地でお化けはどんな言葉で呼ばれており、方言周圏論でどう読み解けるか?

    近畿・中部はほぼ「おばけ」、東北は「もっこ」「もうか」、沖縄は「マジムーン」「ユーリー」、中国地方の島根・広島は「ボイボイ」、山口だけ「ゴンゴンチ」と全く異なる。方言周圏論では近畿発の「おばけ」が新語で、東北や沖縄の語形が古い名残とされる。

  • 滋賀県近江八幡市で見つかった屋根付き木製構造物の列は何か?

    土葬用の埋葬地「三昧(さんまい)」。木の墓標が腐るまで遺体を埋めておき、その後は石の墓へ改葬する両墓制の埋め墓にあたる。現在は火葬後の遺骨が納められており、「土葬はしていない」と地元の人に答えられる食い違いも生じていた。

  • 民間伝承でキツネ・タヌキと並んで「化ける」とされる動物の中で最も多く化けられるのはどれか?

    テン(貂)が「テン9化け」とされ、「キツネ7化け、タヌキ8化け」を上回る。日常生活での知名度は低いが、古くからキツネやタヌキより多く化けられる動物と信じられていた。

  • 「会社民俗学」という視点は民俗学の専門用語でどう位置づけられるか?

    民俗学の「バナキュラー(vernacular)」に相当する。地域共同体が解体した現代において、職場や小集団が独自に形成・口頭継承する言語や慣習を指す概念で、「会社民俗学」はその難解な専門語を日常に届ける「切り出し方の魔法」と評された。

長崎の妖怪「アモジョ」──正体不明のまま三世代を渡った言葉

リスナーのカジさんの父は、子どもが言うことを聞かないと「アボジョが出るぞ」と脅してしつけた。大人になってその正体を父に尋ねると、父自身も祖父に同じ言葉でしつけられており、意味は知らないと言う。調べると「アモジョ」は長崎で化け物・妖怪を意味する幼児語で、確かに祖父は長崎出身だった。正体不明のまま口頭だけで三世代を渡り、カジさん自身は子どもに使わないため自分の代で消滅しそうだという。この体験から、地域ごとのお化けの呼び名への興味を語るお便りだった。

全国お化け方言マップ──方言周圏論で読み解く

「47都道府県方言百科地点」のデータをもとに各地の呼び方が紹介された。東北は「もっこ」「もうか」「もんこ」などモ系の語が並び、北海道の「アモッコ」は東北からの移住者が持ち込んだとみられる。九州では福岡・佐賀が「おばけ」、熊本が「バンバン」、長崎はアモジョ系、宮崎・九州南部に「ガモン」「ガガンモ」が見られる。沖縄は「マジムーン」「ユーリー」と全く別系統の語を使う。

中国地方では鳥取・岡山が「おばけ」、島根・広島ラインで「ボイボイ」に変わり、その境目の山口県だけが「ゴンゴンチ」という唯一無二の呼び名を持つ。中部地方はほぼ「おばけ」だが富山だけが「モモモ」で、近畿はほぼ全域「おばけ」で統一される。

方言周圏論によれば、近畿を文化の発信源とすると距離が遠いほど古い語形が残る。近畿に近い東海・関東が「おばけ」に統一される一方、東北のモ系や富山の「モモモ」が古い同源語の名残である可能性がある。

化け物の話題では「キツネ7化け、タヌキ8化け、テン9化け」という言い伝えも紹介された。一般にはなじみの薄いテン(貂)が最も化けられるとされており、二人も意外だと驚いた。またムササビを「バンドリー」と呼ぶ岩手や青森の伝承では、ムササビが女の子の姿になって山小屋に現れ金縛りを引き起こすと信じられていた。

滋賀・近江八幡の「三昧」──土葬の名残を今に伝える木製墓標

リスナーのビワコンチョさんが滋賀県近江八幡市で見かけた、細長い屋根付き木製構造物が乱立する場所の写真が話題になった。黒川さんはこれを「三昧(さんまい)」──土葬するための土地を意味する言葉──と判断。両墓制でいうところの「埋め墓」にあたる。

民俗学系の調査者・平足さんも同じ場所を訪れて謎のまま投稿していたが、Xのリプライで近江八幡の葬儀屋から証言を得た人物が現れ、三昧であることが確認された。木の墓標(木火)が腐るまで遺体を埋葬し、朽ちた後は石の墓へ改葬するというのがここの習慣だったが、現在はすでに改葬されたお骨が納められているため「土葬していますか」という質問に「していない」と答えられてしまう、知識を前提とした食い違いが生じていた。

墓相学の毒舌本と五輪塔のひいおじいちゃん

リスナーのデクショナリーさんのひいおじいさんは「墓相学」(墓の形・場所の吉凶を研究する学問)の研究者だったという。黒川さんも偶然、矢島不二著・昭和38年刊の墓相学の本を古本で持っており、信仰心のない人を「チンパンジー族」と呼んだり風水的に好ましくない墓を建てた家の没落を実名入りで詳述したりと、現代では出版不可能な内容に驚いていた。ただ歯に衣着せぬ物言いから、墓を真剣に考えた時代の気概も伝わると評した。

「会社民俗学」とバナキュラー──日常をフィールドにする視点

リスナーの大勝さんは「会社民俗学」という視点を提案するお便りを送った。中国の地名「広西(グワンシー)」を社員全員が「ガンシー」と呼ぶ口頭伝承や、遊具が撤去されてもゴジラの名前だけが残り続ける「ゴジラ公園」の例を挙げ、これらが現代のフォークロアだと論じた。

黒川さんはこれを民俗学の「バナキュラー(vernacular)」という概念で説明した。伝統的な習俗「フォークロア」に対し、地域共同体が解体した現代で小集団が独自に形成・継承する文化を「バナキュラー」と呼ぶ。オーケストラ奏者が演奏前に行う縁起担ぎ「トイトイトイ」や、指揮者が「リピートアフターミー」と言えば楽団内で「もう一度やれ」を意味するといった例も同様だ。専門語のバナキュラーは伝わりにくく、「会社民俗学」という身近な言葉こそが概念を日常に届ける「切り出し方の魔法」だと黒川さんは評した。

この回の要点

  • お化けの呼び名には地域差があり、方言周圏論では「おばけ」が近畿発の新語で、東北のモ系・沖縄のマジムーンなどが古い語形の名残と読み解ける。
  • 近江八幡の木製墓標群「三昧」は土葬の名残で、木が腐ったら石の墓へ改葬するという両墓制の埋め墓。現在は改葬後のお骨が納められている。
  • 「会社民俗学」は民俗学の「バナキュラー」に対応する概念で、専門語を身近な言葉に言い換えて切り出すことが日常への橋渡しになる。

お化け方言方言周圏論両墓制バナキュラーおたより回

この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。正確な内容は本編をお聴きください。