市川亨(『障害者福祉ビジネス 食いものにされる税金と利用者』著者)(2026年10月15日放送分)
共同通信記者の市川亨さんが新著『障害者福祉ビジネス 食いものにされる税金と利用者』をもとに、直近5年間で80億円に上る障害者福祉分野の不正実態を語った。グループホーム大手「恵(めぐみ)」による食費中抜きや訪問看護での水増し請求など具体的事例を示しながら、参入障壁の低さと行政チェックの構造的限界を解説する。
この回が答えていること
障害者福祉分野でなぜ近年になって大規模な不正が急増したのか?
10〜15年前からSNSや広告で「利益率30〜50%」と謳う障害福祉ビジネスの宣伝が急増し、フランチャイズやコンサルタント経由の参入者が激増した。財源がほぼ税金で国からの給付金は確実に支払われる「安全なビジネス」である点と、国の地域移行推進で予算が10年間で4倍以上に膨らんだ成長産業である点が背景にある。
グループホーム大手「恵」ではどのような不正が行われていたのか?
愛知県を拠点に全国約100カ所を展開した恵は、1食数百円と案内しながら実際は30円程度の食事を提供し(200gの鶏肉を20人に切り分けるレベル)、利用者が空腹から残飯に手を伸ばす事態が発生。スタッフ数・利用者数を偽った給付金の水増し請求も行っていた。
ホスピス型住宅ではどのような問題が起きているのか?
末期がん患者に制度上認められた「1日3回の訪問看護」を状態に関係なく一律適用し医療報酬を請求。数秒の安否確認を「30分訪問」として記録したり、不要な深夜訪問や複数人訪問の加算を水増し請求するケースが横行している。家賃を安く設定しているため利用者には割安に映り問題が表面化しにくい。
行政の監査・監督体制はなぜ機能しにくいのか?
事業者数がこの10年で急増した一方、行政の監査担当者数はほとんど増えておらず実態調査が追いつかない。立入検査は数週間前に事前通知されるため悪質業者が書類を整える余地があり、悪質な事業者ほど書類を完備するため書類審査では発見が難しい。県をまたいだ情報共有の仕組みもなく、問題業者が別の県で新たに開設申請できてしまう。
悪質な施設を選ばないためにどう見極めればよいか?
公的情報公表サービスでスタッフの経験年数を確認し、開設から年数が経っているのに在籍年数が短い人ばかりの場合は離職率が高いサインと見る。見学時に「最も在籍の長いスタッフの勤続年数」を聞くことも有効。体験入居・見学会で実際の入居者から話を聞くことが推奨されるが、住居は容易に替えられないため根本的な見極めの難しさは残ると市川さんは指摘する。
障害者福祉ビジネスへの大規模参入が始まった背景
市川亨さんは1996年に共同通信社に入社し、地方支局、厚生労働省キャップ、ロンドン特派員、生活報道部編集委員などを歴任し、社会保障分野を約20年取材してきた。自身に知的障害のある子どもがおり、当事者家族としての視点もこの取材を続ける動機になっている。
以前から障害福祉の現場に悪質な事業者はいたが、小規模でひっそりと不正を行うケースが多かった。潮目が変わったのは10〜15年前。SNSや広告で「障害福祉ビジネスで利益率30〜50%を目指せる」という宣伝が急増し、フランチャイズやコンサルタントを通じた参入者が一気に増えた。厚生労働省が把握している直近5年間に発覚した不正額は80億円に上り、前の5年間比で2.6倍に拡大。財政規模を調整すると高齢者向け介護保険の約10倍の不正発生率という。
障害福祉サービスの財源はほぼ税金で、国・自治体からの給付金は確実に支払われる。民間取引と違い倒産や不払いのリスクがなく、国が精神科病院や入所施設からの地域移行を推進したことでグループホームなどの予算がこの10年で4倍以上に膨らんだ成長産業でもある。
グループホーム大手「恵」とアニスピホールディングスの事例
2023〜2024年に発覚した愛知県を中心とするグループホーム大手「恵(めぐみ)」は、数年間で全国約100カ所を展開した。入居者の食費を中抜きし、1食数百円と案内しながら実際は30円程度の食事を提供。200グラムの鶏肉を20人に切り分けるような水準で、利用者が空腹から台所の残飯に手を突っ込む事態も発生した。加えて、スタッフ数や利用者数を偽って国への給付金を水増し請求する不正も行っていた。
フランチャイズ展開したアニスピホールディングスでは「1900カ所のフランチャイズ」と謳いながら実際は370カ所だったことも判明した。障害者グループホームは経営者・スタッフともに資格や業界経験が不要で開設でき、参入障壁が極めて低いことが悪用されている。「私も武田さんも今すぐ始められる」と市川さんは語る。
ホスピス型住宅での訪問看護をめぐる不正
ホスピス型住宅は末期がんや難病の患者が入居する住宅型有料老人ホームで、看護師・介護士が常駐し看取りも行う。末期がん患者には制度上1日3回の訪問看護が認められていることを利用した不正が広がっている。
本来は患者の状態を見て訪問回数を決めるべきところ、一律全員に1日3回訪問したことにして医療報酬を請求する。深夜訪問や複数スタッフでの訪問には加算報酬があるため、不必要な訪問を「実施した」として記録するケースもある。実態は数秒の安否確認なのに「30分の訪問看護」として請求した事例も取材で確認されている。こうした施設は医療・介護報酬で高収益を得る一方、家賃を安く設定することで利用者には割安感があり、虐待があるわけでもないため問題が表面化しにくい構造がある。
行政チェックが追いつかない構造的問題
事業者数はこの10年で急増したが、行政の監査担当者はほとんど増えていない。内部告発があっても事業者が否定すれば書類で裏を取る必要があり、一件一件に膨大な手間がかかる。悪質な業者ほど書類を整えるため、書類審査では発見が難しいという逆説がある。
立入検査は通常数週間前に事前通知されるため、書類を改ざんする余地が生まれる。現場スタッフや退職者への聞き取りなど実態に即した調査が必要だが、人員不足で実施できていない。さらに、ある県で問題を起こした事業者が別の県に指定申請をしても情報共有がなされず、書類さえ整っていれば開設が認められてしまう制度的な抜け穴も放置されている。
施設の見極め方と今後の課題
市川さんは見極めの指標として「スタッフの定着率」を挙げる。公的な情報公表サービスでスタッフの経験年数を確認し、開設から年数が経過しているのに在籍年数が短い人ばかりの場合は離職率が高いサインだ。見学時に「最も在籍の長いスタッフの勤続年数」を直接尋ねることも有効とした。体験入居・見学会で実際の入居者から話を聞くことも推奨される。
ただし根本的な難しさは残る。住居は容易に引っ越せない上、家族の生活リズムもあり「多少問題があっても他に移れない」という構図を事業者も把握している。スポーツジムのように簡単に乗り換えられれば競争原理が働くが、障害者・高齢者の住居ではそうはいかない。
近年は精神障害者向けサービスが特に増加しており、企業の障害者雇用率を満たすために名目上雇用して実質的な仕事を与えない「障害者雇用代行ビジネス」も広まりつつある。高齢化が進む中でこの市場はさらに拡大すると見られ、市川さんは「参入ハードルの引き上げとチェック機能の強化が急務」と訴えた。
この回の要点
- 直近5年で発覚した障害者福祉の不正は80億円・前期比2.6倍で、財政規模調整後の発生率は介護保険の約10倍に上る
- グループホームは資格・経験不要で開設でき、税金が財源で不払いリスクがない「確実なビジネス」という構造が大規模不正を生んでいる
- 行政の監査人員が事業者増加に追いつかず、事前通知の立入検査と書類審査中心のチェックでは悪質業者を排除しきれていない
この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。正確な内容は本編をお聴きください。