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【辻田真佐憲(青木理)】2026年10月15日 「「戦後」とは何だったのか - 未来を変える日本現代史」(「新しい戦前」ではなく「新しい戦後」/戦後日本の成長は多くの条件が奇跡的に重なっていただけ)

2026-10-15 · 29分 · 4分で読める

評論家・近現代史研究者の辻田真佐憲が新著『戦後とは何だったのか――未来を変える日本現代史』(文春新書)を引っ提げて登場。タモリが発した「新しい戦前」という言葉に応え、「新しい戦後」を積極的に構想すべきだと主張した。戦後日本の平和と高度経済成長は、朝鮮戦争特需・農村の過剰人口・安価な石油・冷戦構造という複数の偶然が重なった「奇跡」であり、その条件がすべて失われた今、吉田茂の「したたかさ」を取り戻し新たな国民の物語を作り直す必要があると訴えた。

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この回が答えていること

  • 辻田さんが提唱する「新しい戦後」とは何で、タモリの「新しい戦前」とどう違うのか?

    「新しい戦後」とは、戦前か戦後かという二択を超えた第三・第四の選択肢を積極的に準備する姿勢を指す。タモリの「新しい戦前」が警告のメッセージであるのに対し、辻田さんはそれを否定せず「新しい戦前にしないためにこそ新しい戦後を構想すべきだ」と前向きに言い換えた。

  • 戦後日本の高度経済成長は本当に日本人の勤勉さと努力の結果だったのか?

    戦後の高度経済成長は朝鮮戦争・ベトナム戦争の特需、農村の過剰人口が都市労働力に転換した幸運、ただ同然の安価な石油、冷戦下のアメリカの後盾など複数の偶然が重なった結果だった。高市首相が「昭和100年式典」で語った「日本人が勤勉だからうまくいった」という物語は一面的だと辻田さんは批判する。

  • 吉田ドクトリンは本来どういう意図のものだったのか、今も有効なのか?

    吉田ドクトリンは安全保障をアメリカに委ね経済復興に集中する戦略だったが、吉田茂本人は晩年に再軍備や核武装さえ検討すべきと発言しており、永続させる意図はなかった。今や中国台頭・冷戦終結・アメリカの要求増大で前提条件が変わっており、見直しが求められている。

  • なぜ1990年代が戦後の大きな隠れた転換点だったのか?

    90年代はオウム事件・阪神淡路大震災・冷戦終結・バブル崩壊による「失われた10年」・Windows95によるインターネット普及・衆院の中選挙区から小選挙区への移行と、現在の日本社会の基盤を形成した変化が集中した激変期だった。その影響が今になって現実として目前に迫っている。

  • これからの日本に必要な「国民の物語」とはどのようなものか?

    戦争責任を含む過去の負の面も「我々」という主語で引き受け、戦後の良い遺産は継承して発展させるという一貫した物語が必要だ。移民受け入れや東京一極集中の是正、日本の自由・表現の自由という強みの再発信も、その新しい物語の中に位置づけ直すべきだと辻田さんは説く。

「新しい戦後」という問題提起

辻田真佐憲は昨年(2025年)、戦後80年に合わせて前著を刊行し電子書籍含む11万部を記録した。今年の新著は、その続編として戦後81年を迎えた今、「戦前」より長くなった「戦後」そのものを問い直すものだ。学校の教科書でも十分に扱われておらず、一冊でまとめた本もなかった「戦後史」の入門書を目指したという。

タモリが数年前に発した「新しい戦前が来ているのではないか」という言葉に多くの人が同意したことに触れながら、辻田さんはそれを否定するのではなく「新しい戦前にしないために、新しい戦後を積極的に構想しよう」と言い換えた。今の日本社会は「戦前か戦後か」という二択(二者択一)に縛られすぎている。戦後を批判すれば即「戦前回帰だ」と叩かれるが、選択肢はその二つだけではないはずだ、というのが出発点の問いだ。

戦後の「奇跡」は本当に偶然の産物だった

戦後日本の平和と高度経済成長は、複数のラッキーな条件が重なった結果だったと辻田さんは強調する。

まず、朝鮮戦争の特需が戦後復興を後押しし、日本はベトナム戦争にも間接的に関与することで利益を得た。次に、農村に過剰人口を抱えていた日本は、大日本帝国崩壊後に引き揚げてきた人々を含む農村の余剰労働力が東京・大阪などの都市に流入することで工業化を支えた。ヨーロッパ諸国が旧植民地やトルコからの移民労働力を必要としたのと対照的に、日本は「内なる移民」で賄えたため、現在ヨーロッパが直面するような移民問題を当初回避できた。さらに当時の石油価格は今と比べれば「ただ同然」で石油化学コンビナートと火力発電の整備を可能にした。そして冷戦構造のもとでアメリカが日本に配慮を示し、中国は経済的・軍事的に格段に弱かった。

これらの条件はすべて現在では失われている。中国はもう日本をはるかに超えており、冷戦は終わり、アメリカは様々な要求をしてくる。高市首相が「昭和100年式典」で語ったとされる「日本人が勤勉だからうまくいった」という物語はこうした偶然を無視したものだと辻田さんは批判し、「嘘の物語に引きずられやすくなっている」と警告する。

吉田茂の「したたかさ」を取り戻せ

戦後日本の基本戦略を作った吉田茂の「吉田ドクトリン」――安全保障をアメリカに任せ経済復興に集中する路線――は、実は吉田自身が本心から永続を信じていたものではなかった。戦前の大日本帝国外交官出身の吉田は、経済が復興したら再軍備を、場合によっては核武装さえ検討すべきと晩年に発言している。

吉田はアメリカを「利用する」姿勢を持ちながら、表向きは日米同盟を前面に出し、日本を速やかに国際社会に復帰させるしたたかな外交を展開した。戦前とは切り離したと見せながら、昭和天皇はそのままで政治家・官僚・経済人の多くも戦前と連続していたという二枚舌も辞さなかった。ところが戦後が長くなるにつれ、吉田路線は「当たり前の前提」として固定化し、本来持っていたしたたかさが佐藤栄作・池田勇人の時代あたりを境に失われてしまったと辻田さんは見る。

今後も目先はアメリカを基軸に置かざるを得ないとしても、中国やロシアとのパイプを切らず別の選択肢を用意しておくことが重要だ。「媚中」と批判されるからといって向こうの指導部とのコミュニケーション回路を持つ政治家を排除すれば、いざという時に交渉できなくなる、という指摘は現在の国会状況への直接的な批判でもある。

1990年代という「隠れた転換点」

辻田さんは1990年代を戦後の大きな切れ目と位置づける。オウム事件、阪神淡路大震災、冷戦終結、バブル崩壊後の「失われた10年」、Windows95によるインターネット普及、衆院の中選挙区制から小選挙区制への移行と、現代日本を作った変化の多くが90年代に集中しており、その影響が今になって現実として目前に現れてきているという見立てだ。

「失われた10年・20年・30年」という言い方には「本来は自分たちのものだったから取り戻せる」という幻想が込められている。安倍政権の「日本を取り戻す」、高市政権の「Japan is back」というスローガン、64年東京五輪の再現としての東京五輪や大阪万博への期待も同じ幻想の延長線上にある。昭和の高度経済成長は安倍さんにとっての「三丁目の夕日」的なノスタルジーかもしれないが、「あの時代の条件はもう無理だと認めた上で新しい国をどう作るかを考えるべきだ」と辻田さんは主張する。

新しい「国民の物語」をどう作るか

今後の課題として辻田さんは「国民の物語」の構築を挙げる。戦争責任を含む過去の負の面も「我々」という主語で引き受け、良い部分は継承して発展させるという一貫した物語が必要だということだ。「自分は戦前世代でも日本兵でもないから戦争責任を負わない」という態度は、保守の立場や総理大臣の立場からは問題だと指摘する。

人口減少・少子高齢化が進む中で移民の受け入れは避けられないが、「日本は単一民族」という戦後に広まった物語を書き換えることは歴史的に見ても可能だ――戦前の政府はむしろ「多民族国家」を称していたのだから。ただしヨーロッパの失敗に学んだ秩序ある受け入れの知恵は必要だとも辻田さんは釘を刺す。東京一極集中と地方衰退の問題も、農業が国土管理と不可分である以上経済採算だけで判断できないとして、新しい戦後における「東京対地方」の問題設定の共有を求めた。

「明治維新の際も、江戸時代の学者たちが積み上げたアイデアを危機の時に合成して使った。今は道具作りの段階だ」と辻田さんは締めくくった。戦前か戦後かという二択を超えた第三・第四の選択肢のキーワードを今から用意しておくことで、政治的激変や大災害が起きた時に考えるヒントをたくさん持った状態で臨める――その準備として本書を書いたのだという。

この回の要点

  • 戦後日本の高度経済成長は日本人の勤勉さだけでなく、朝鮮戦争特需・農村の過剰人口・安価な石油・冷戦構造という偶然の条件が重なった奇跡であり、その条件はすべて失われた。
  • 吉田茂はアメリカを「利用する」したたかな外交を展開していたが、その精神は戦後の長期化とともに忘れられ、今は形骸化した吉田路線に惰性でしがみついている状態だ。
  • 「新しい戦前か戦後の継続か」という二択を超え、変わった現実を認めた上で第三・第四の選択肢となるキーワードを今から蓄積しておくことが急務だ。

戦後史日本現代史吉田ドクトリン少子高齢化覇権国家

この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。正確な内容は本編をお聴きください。