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【國分功一郎】2026年10月20日 オードリー・若林正恭さんとの共著「帳の向こう」

2026-10-20 · 29分 · 3分で読める

哲学者・國分功一郎が、オードリーの若林正恭との共著『帳の向こう』(文藝春秋)を引っさげて登場。文芸誌『文學界』で4年半・5回にわたって行った対談から、コスパ社会の息苦しさ・民主主義と疲労の関係・自己肯定感と対話の本質が語られた。「疲れ切った社会は独裁者を望むようになる」「日本の選挙期間は12日しかない」など、哲学と現代政治をつなぐ鋭い指摘が続く回。

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この回が答えていること

  • 國分功一郎と若林正恭はどのようにして共著を出すことになったのか?

    編集者が持ち込んだ企画がきっかけ。若林がインスタグラムで國分の著書(難解で知られる『中動態の世界』を含む)を紹介しているのを國分が発見し、若林側からも対談希望があった。『文學界』で4年半・5回の対談を行い一冊にまとめた。

  • 哲学を学ぶだけで自己肯定感は上げられるか?

    ただ学ぶだけではありえない、と國分は言う。自己肯定感を上げるには自分との対話が必要で、そのためにはまず他者との会話を重ねることが先決だと指摘。当事者研究の話にもつながった。

  • コスパ重視の社会はなぜ人を息苦しくさせるのか?

    「何でも何かのためにやらなければならない」という目的志向が支配し、目的なく楽しむ余地が消えるから。若林はキューバから帰国するたびに日本の息苦しさが際立つと語り、國分自身も「無駄をなくそうとしてしまう人間」と自戒した。

  • 民主主義が機能するためにはどのような条件が必要か?

    余裕・休暇・時間が不可欠。労働で疲れ切った市民は考えることも調べることもできず、「面倒だから誰かやってくれ」と独裁者を望むようになる、と國分は本の中で明記している。

  • 老いることを哲学者はどう捉えるか?

    國分が研究するドゥルーズは「お金と健康の問題を除けば、老人であることほど素晴らしいことはない」と語った。ヘーゲルの図式では、老人は主観と客観の対立が消え、子どもの頃のような境地に近づくという。

若林正恭との出会いと共著『帳の向こう』

東京大学大学院総合文化研究科教授で哲学者の國分功一郎が持参したのは、オードリーの若林正恭との共著『帳の向こう』(文藝春秋)だ。文芸誌『文學界』で2人が4年半・5回にわたって行った対談をまとめた一冊で、縁は編集者が持ち込んだ企画から始まった。若林が自動車免許の更新待ちにインスタグラムで國分の著書——難解で知られる『中動態の世界』を含む——を紹介しているのを國分本人が発見し、若林側からも「ぜひ話したい」という希望があって実現した。

大竹は「こういう対談本でこんなに面白いと思ったことなかった」と評し、その理由として若林の「素直な疑問のぶつけ方」を挙げた。世間的な常識に引っ張られず、「これはどういうことか」と率直に問い続ける姿勢が対談の核になっている。

哲学は自己肯定感を上げるか——対話の力

若林が投じた問いの一つが「自己肯定感が平均50のところ20の人は、哲学を学んで70にできるか」というものだ。國分の答えは「ただ哲学を学ぶだけではありえない」。自己肯定感を高めるには自分との対話・自分を知ることが先決だが、自己肯定感が低い人は自分のことが好きでないため、自分との対話自体がつらい。だから「まず人と話すこと」が入口になると説いた。人との会話を経てはじめて、自分の中の「ああでもないこうでもない」という内なる対話が育まれるという。

大竹が「バカは自己肯定感が高い、俺も若い頃そうだった」と笑うと、國分は「それは自分と他人を比べないということでは」と返した。あの人はこうだから自分もこうしなければ、という比較の回路がなく、「これが好き、これをやる」と動ける人間の強さを指摘した。

コスパ社会の息苦しさとスピノザ

若林がキューバなど海外から帰国するたびに感じる日本の息苦しさ——その正体が「コスパ」という言葉で象徴される傾向だと二人は語る。どんな行為も「何かのため」に位置づけなければ許されない空気が蔓延し、夕日を眺めることすら正当化が必要になる。國分自身も「気づけば無駄をなくそうとしている」と自戒しつつ、「そのためだけにやること」の価値を守ることが大切だと語った。

哲学者として本書ではスピノザを軸に置いている、と國分は明かした。ユダヤ系でありながら教会と袂を分かって生きたスピノザは、哲学史の中でも研究者が扱いに困ってきた「メインストリームに乗らなかった」思想家だ。その反抗的な知性に親しみを覚えると語った。

また、先頃亡くなったアメリカの哲学者フレドリック・ジェイムソンの言葉「世界の終わりを想像するより資本主義の終わりを想像する方が難しい」を引用し、加速し続ける経済をいかに軟着陸させるか誰も答えを持っていないと率直に認めた。

疲れた社会に民主主義は機能するか

本書の中でも鋭い一節として大竹が読み上げたのがこの文だ——「疲れたら考えられないし調べられない。みんなが疲れると、面倒だから誰かやってくれという独裁志向が生まれる」。権力者にとって大衆を疲れさせておくことが好都合である、という構造を指摘する。古代ギリシャでは重労働者に政治参加させない慣習があったことを挙げ、差別的な制度ではあるが「余裕がなければ政治参加はできない」という本質は現代に生きると論じた。

選挙期間の国際比較も取り上げた。日本はわずか12日間。フランスは約1か月、アメリカはほぼ1年中選挙活動が続く。期間が短いと知名度のある候補者が有利になり、言葉による真剣な議論が育ちにくい。國分がイギリスに1年滞在した2015〜16年には毎週水曜日の国会中継を楽しみに視聴したと語り、言葉でやり合う政治の面白さを実感したという。一方で「ゲーミフィケーション(政治参加をゲーム化すること)」については、「人間がシリアスであることが大事。ゲームではダメだ」と限界を指摘した。

老いることの哲学的意味

ヘーゲルを単純化した図式として國分が紹介したのは、子ども→大人→老人という変化だ。子どもは主観と客観の対立がなく世界に溶け込んでいる。大人になると自分という主観が世の中という客観と対立し、葛藤する。そして老人になるとその対立そのものが消え、もう一度子どものような境地に近づく。

國分が研究するジル・ドゥルーズは晩年、「お金の問題と健康の問題を除けば、老人であることほど素晴らしいことはない」と語ったという。さまざまなものから解放され、これまで生き延びてきた自負もある——そういう老年期の豊かさを、社会が孤独な独居老人を大量に生み出している現実と対置させながら、「健康とお金の心配をなくすセーフティネットを整えることこそ政治の仕事だ」と結んだ。

この回の要点

  • 疲れ切った社会では民主主義が機能せず「誰かやってくれ」という独裁志向が生まれる、と國分は本書で明記している。
  • コスパ重視は「何かのためだけに動く」思考を強制し、國分自身も自戒しながら「無駄」の価値を守ることの大切さを説く。
  • 自己肯定感は哲学を学ぶだけでは上がらず、他者との対話を経て育まれる自己との対話が鍵になる。

哲学民主主義コスパ社会読書・対談老いと幸福

この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。正確な内容は本編をお聴きください。