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「これでいいや」で仕事を終わらせていないか?世界一の美食家に学ぶ、一流の思考と技術【浜田岳文×GO三浦】
世界のベストレストラン50アジア版の日本選考委員長を務める美食家・浜田岳文が、「うまい」と「おいしい」の違いを軸に、一流の料理を見極める思考法と評価基準を語った。アメリカの大学寮で食の劣悪さに直面し、22歳のパリ留学でピエール・ガニエールに衝撃を受けた原体験から、考え抜くことと技術の遂行を両立する料理人の共通点、さらに群馬・前橋国際芸術祭でのガストロノミー×アートの実験まで、食を入口にした本質的な仕事論が展開される。
この回が答えていること
「うまい」と「おいしい」はどう違うのか?
「うまい」は生理的な快感のみを指す。「おいしい」はそれに加えて、料理人の技術・思想・生産者のストーリーを総合的に味わう知的快楽を含む体験。茶道がただうまいお茶を飲む行為でなく文化的体験であるのと同じ区別で、この本の核心となる概念。
浜田岳文が食の世界に真剣に向き合うようになったきっかけは何か?
アメリカの大学寮で果汁ゼロのゼリーが4日連続ビュッフェに並ぶほど劣悪な食事に直面し、生き残るために外食を始めたのが出発点。その後パリ留学中の21〜22歳頃、ピエール・ガニエールで肉と魚介を組み合わせた前例のない料理に衝撃を受け、「おいしい」という概念に目覚めた。
浜田が一流のレストランを評価するときの基準は何か?
好き嫌いでなく「いい・悪い」でロジカルに評価することを徹底する。具体的には①料理についてどこまで深く考えているか(何を聞いてもスパッと答えが返ってくるか)、②考えを実際に形にできる手の技術(クラフトマンシップ)があるか、③ストーリーを発信・伝達できるか、の3点。
料理人やクリエイターが自ら情報発信することをどう考えるべきか?
発信がその料理の魅力の一部である料理人は積極的に行うべきだが、必要ない人は無理にする必要はない。ただしその場合は、ファンが代わりに口コミを広げる構造が重要になる。また一言・ワンセンテンスで店の魅力を説明できることが口コミの拡散に直結すると指摘した。
前橋国際芸術祭で浜田が手がけるガストロノミーのプログラムとはどのようなものか?
「フード・アズ・アート?」をテーマに、食がアートの領域に入りうるかを検証するプログラム。コペンハーゲンのレストラン「アルケミスト」のシェフが来日し、海洋プラスチック問題を提起する食べられるプラスチック状のものを添えた料理などのデモンストレーションとトークを行う。
食には3つのレイヤーがある——「うまい」と「おいしい」の違い
浜田岳文は食を3つの層に分けて捉えている。第一層は「栄養摂取のための食事」、第二層は「うまいから食べに行く食事」、そして第三層が彼のいう「おいしい」だ。
「おいしい」とは、生理的な快感だけでなく、料理人の技術や考え方、背後にいる生産者のストーリーも含めて味わう体験を指す。彼はこれを茶道に例える。茶道はお茶がうまいから飲むわけではなく、文化的体験としての側面を持つ。その体験全体がガストロノミー——食と文化が交わる領域——にあたるという。ガストロ(胃袋)+ノミー(規範・法則)を語源とする「ガストロノミー」という言葉自体も、この回でわかりやすく解説された。
劣悪な寮食からパリの三つ星へ——美食家の原体験
浜田が食に興味を持ったのは、グルメへの憧れからではなかった。アメリカの大学1年時、全員寮に入るルールがあり、そこで出される食事が「生存を脅かすレベル」だったという。果汁ゼロの緑色のゼリーが4日連続ビュッフェに並び、誰も取らないでいると4日目にホイップクリームが乗って再登場する——そのレベルのものだった。サバイバルのために外食を始め、「うまい」に興味を持つようになった。
転機は大学の単位を半年早く取り終えてパリに移住した21〜22歳頃。三つ星シェフのピエール・ガニエールの店を、彼がまだ二つ星を取った初年度に訪れた。そこで出てきたのが、当時は珍しかった肉と魚介を組み合わせた料理。「うまいだけなら、わざわざ抵抗感を生む組み合わせをやる必要はない。なぜこれをやるのか」と考えたことが、「おいしい」への興味の出発点になったと語った。
一流の料理を見極める3つの基準
浜田は料理を好き嫌いで評価しない。好みの話は「俺はこれが好き/俺は好きじゃない」で会話が終わり、議論が生まれないからだ。「いい・悪い」で評価するからこそ、なぜいいかの説明につながり、ロジカルな対話が生まれる。その上で彼が重視する基準は3つある。
第一は「どこまで深く考えられているか」。新橋の日本料理の名店「星野」を例に挙げ、「刺身には醤油とわさび」という当たり前とされてきた選択をあえて再検証する姿勢を評価する。100回試して99回は先人が正しかったと分かるとしても、残り1回の発見がある。さらに99回の失敗も、「なぜそうすべきでないか」を自分の言葉で説明できる根拠になる。
第二は「考えを形にする手の技術(クラフトマンシップ)」。山梨の小さな村の森の中にある「ノートリー」という若いシェフの店を挙げた。今のトレンドが一皿の構成要素をシンプルに絞ることにある中、地元食材を多く組み合わせた複雑な皿を作り、それを見事にまとめ上げている。「料理が上手」という言葉しか出てこないが、他の料理人からも同じ言葉が出るほどの技術だという。
第三は「発信力・ストーリーを伝える力」。素晴らしい店でも、その良さをワンセンテンスで説明できなければ口コミとして広がらない。「巻き焼きが得意なイタリアン」のように伝わりやすい一言を、店自身がお客に用意できているかどうかも重要だと指摘した。
批評はクリエイションである——発信をめぐる哲学
自ら発信したくない料理人・職人については、ファンが代わりに発信する構造があれば十分だという。ただし口コミが広がるには、素人がその魅力を簡単な言葉で説明できることが前提になる。
浜田自身について興味深い自己分析も飛び出した。幼い頃から絵を描くことすら苦手で、自分にはクリエイティブな才能がゼロだという。一方で、音楽を聴くときもメロディの美しさより「コード進行の構造」を自然に分析してきた。作る才能ではなく、受け取って構造を見抜く才能が最初からあったということだ。ホスト役のGO三浦は「作品の見方を新しく作ることもクリエイティブな行為」と評し、「広告は創作よりも批評に近い」という言葉に浜田が共感する場面もあった。
前橋国際芸術祭「フード・アズ・アート?」
現在最も力を入れている場所として挙げたのが群馬県の前橋。9月下旬から12月末まで開催される前橋国際芸術祭で、ガストロノミー×アートのプログラムのプロデュースを担当している。テーマは「フード・アズ・アート?」——食がアートの領域に入りうるかを検証するものだ。
目玉となるのがコペンハーゲンのレストラン「アルケミスト」のシェフの来日。同店では海洋プラスチック問題を提起するため、食べられるプラスチック状のものを料理に添えている。問題提起を聞かされた上でプラスチック的なものを口にする体験は躊躇やネガティブな感情を呼ぶが、「ネガティブな体験ほど記憶に残る」という意図があり、実際に食べるとちゃんと美味しいという。来日時にはトークとデモンストレーション料理の両方を行う予定だ。
この回の要点
- 「うまい」は生理的快感、「おいしい」は技術・思想・ストーリーを含む知的快楽——この3層構造が浜田の食評価の基軸である
- 考え抜くこと(思考の深さ)と形にすること(手の技術)の両立が、一流の料理人を見極める核心的な条件であり、これはあらゆる仕事に通じる
- 批評は創作の対義語ではなくクリエイティブな行為であり、「作品の見方を新しく作ること」もまた独自の価値を持つという視点が提示された
この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。正確な内容は本編をお聴きください。