# #82【ダウ蓮見×松尾スズキ】ウケないままお話が突き進んでいる - Show: トキトケトーク - Published: 2026-10-12 - Canonical: https://podc.club/episode/1805089540_50d4a827ca75.html - Audio: https://traffic.megaphone.fm/MBSINC3984605760.mp3 - Source: この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。 作家・演出家・俳優の松尾スズキが、漫画家志望から大人計画を結成するまでの経緯と、劇場確保が「3年前から」になりつつある演劇業界の現実をざっくばらんに語る。コクーンアクターズスタジオのミュージカルや北九州市立美術館での個展など直近の仕事を紹介しながら、コント演技が「客席向きのツッコミ」に慣れすぎている現状への苦言と、バーセットを逆向きに組むなど独自の演出哲学も展開した。 ## この回が答えていること ### 松尾スズキが創作の中でいちばん時間がかかると感じているのは何か? 「映画」と即答。企画を通す段階から投資家へのプレゼン、「信じられないほど安い」監督料で2年間働くなどコスパが最悪だと苦笑いした。演劇も劇場を2年前から押さえる必要があるが、大劇場系は2年半前から動き始めていると嘆いた。 ### 大人計画はどのようにして生まれ、その名前の由来は何か? 大学時代の知人と2人で立ち上げ、張り紙で仲間を集めて最初は5〜6人規模だった。「大人計画」という名は松尾自身が決めた。当時流行していた「いつまでも子供でいる」演劇スタイルへの反発から、社会人経験もある松尾があえて「大人」を名前に冠した。 ### 松尾スズキが演劇の道に進んだきっかけは何だったか? 漫画家志望だったが「絶頂シーンが描けない」壁に当たり行き詰まった。大学の演劇研究会に誘われて入り、「芝居は絶頂シーンを誤魔化せる」と気づいたことと、九州の大学時代に対抗試合で受けた手応えが後押しになった。 ### 近年のコント演技について松尾スズキはどんな危機感を持っているか? ショーレースで笑いの数を競う文化が浸透した結果、コントで「客席を向いてツッコむ」行為が一般化していると指摘。「演劇の演技体がコントに吸収されている」と危機感を示し、コントでも客電を消したままの緊張感を保ってほしいと述べた。 ### 舞台のセット作りで松尾スズキが重視していることは何か? バーのセットはカウンター内側が全部観客に見える逆向き配置にして「嘘をつかない」を徹底。外国戯曲のテーブルシーンではキャスター付き椅子で役者が動きながら顔を見せる演出を考案し、「アメリカの劇団もコの字配置にしていたのに勝てた」と語った。 ## 本文 ## 近作の告知:ミュージカルと個展 2026年12月19・20日、文化村シアターコクーンにてミュージカル『アンサンブルデイズ 彼らにも名前がある』が上演される。松尾スズキが学長を務める若手向け演劇塾「コクーンアクターズスタジオ」の受講生による発表公演で今年3回目、演出は堀越亮が担当する。同じ台本を毎年異なる役者が演じる試みで、「他の人に渡すために少し優しく書く。自分でやるときは脚注も省いて現場でやればいいと思っている」と、自演出との書き方の違いを明かした。 2026年12月15日から2027年2月21日まで北九州市立美術館にて「松尾スズキ展2026」も開催。2023年の初個展の作品に新作を加えた約300点を展示する。アクリル画、iPad絵、AI動画、舞台上でのライブペインティング、等身大の美術セット、自作音楽など内容は多岐にわたる。「インスタに出しすぎて承認欲求のお化けになったのかと思われているかもしれないが、この展覧会に向けた制作のため」だと説明した。 ## 創作でいちばん時間がかかるもの、そして劇場確保の現実 「絵・音楽・映画の中で一番時間がかかるのは映画」と松尾は即答した。企画段階から投資家へのプレゼン、「信じられないほど安い」監督料で2年間働くなど、コストパフォーマンスが最悪だという。 演劇も劇場を2年前から押さえる必要があるが、シスカンパニーや劇団☆新感線などの大劇場は2年半前から動き始め、オファーしたい俳優が「野田MAPに出るので出られません」という事態も起きている。「3年前の自分が何をするか決めるのは不誠実だ」と松尾は言いながら、広瀬すずや松本潤といったスターを揃えた上にさらに古田新太らを加える野田秀樹の座組みの贅沢さに「どうすんだよ」と苦笑いした。野田さんとは舞台上で足を踏まれた恨みもある、という小話も飛び出した。 ## 演劇の道へ進んだ経緯と大人計画の結成 松尾スズキはもともと漫画家志望で投稿を続けていたが、「絶頂シーンが描けない」壁にぶつかった。大学の演劇研究会(劇研)に誘われて何気なく入り、「芝居は絶頂シーンを誤魔化せる」と気づいたことが転機になった。 九州の大学時代は他大学との対抗試合などで「そこそこ受けていた」が、東京に出て就職しながら先輩の芝居を観ると「クソつまらなくて、これならいける」と感じた。しかし自分が東京でやり始めると「受けないままお話が突き進んでいる、大丈夫?」という感覚があった。それでも「手応えはうっすらずっとある」という微妙なポジティブさで続けたという。 大人計画は大学の知人と2人で立ち上げ、張り紙で仲間を集めて最初は5〜6人の規模だった。「大人計画」という名は松尾自身が決めた。当時は浅田彰の「逃走論」的な「いつまでも終わらない子供時代を追い求める」演劇スタイルが流行しており、大人の役者がランドセルを背負って走り回る演技も多かった。社会人経験のある松尾には「恥ずかしかった」といい、その反発からあえて「大人」をグループ名に冠した。 ## 近年のコント演技への苦言 ショーレース(コント大会)で笑いの数を競う文化が浸透した結果、コントで「客席を向いてツッコむ」行為が当たり前になりつつあると松尾は指摘する。「演劇の演技体がコントの演技に吸収されている」と危機感を示し、「漫才は観客に向かうスタイルでいいが、コントはまだ客電を消したままでいてほしい」と述べた。自分たちのライブでは絶対に客電はつけないという。 ## セット作りの哲学:「嘘をつくくらいならやらない」 バーを舞台セットにする際、多くの劇団がカウンターを斜めに置くのに対し、松尾はあえてバーテンが後ろを向く配置にする。カウンターの内側が全部観客に見えるようになり、そこをすべて作り込まなければならなくなる。「嘘をつくぐらいならやらない」という哲学だ。 外国戯曲で議論シーンが続く舞台では、精神病棟という設定を活かしてキャスター付きの可動式椅子を使い、役者が移動しながら顔を見せる演出で解決した。「アメリカの劇団もコの字配置でお客さん側に誰もいない形にしていたのに、それに勝てた」と手応えを語った。 こうした「箱」を使った演出の原点として、シティボーイズと組んでいたコントユニット「ラジカル・ガジベリビムバムバン」への言及もあった。直談判して出演させてもらったこのユニットでは、黒い正方形の箱だけで椅子にも台にもなるシンプルなセットを使っており、「以来赤字になったことがない」という原則を学んだ。松尾自身が最初にギャラをもらったのも人力車(コントグループ)経由だったといい、「コントといえば箱」の起源はその辺りにあるのではないかという話題で盛り上がった。 ## この回の要点 - 劇場確保が2〜3年前からになりつつある演劇業界で、松尾は「3年後の自分が何をするか決めるのは不誠実」と嘆く。 - 大人計画の「大人」という名は、当時流行していた子供ごっこ的な演劇スタイルへの社会人経験者としての反発から生まれた。 - 「嘘をつくくらいならやらない」という哲学が、バーの逆向き配置や可動式椅子など松尾の独自演出の根底にある。