# #639 「また会いたい人」は何が違うのか - Show: プレジデント音声版 - Published: 2026-10-14 - Canonical: https://podc.club/episode/1525273315_e96d00c6cc4e.html - Audio: https://traffic.omny.fm/d/clips/a10fab0c-08e4-4ce4-abed-aeb601152bcc/fa8d9e0c-1e7b-4e5e-81c9-aebc0016b5a2/4980bfd3-76d8-4639-92d3-b4df00999c37/audio.mp3?utm_source=Podcast&in_playlist=2bdab59e-ba3e-4897-b598-aebc0016b5b0 - Source: この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。 テレビ朝日エグゼクティブアナウンサーの大下陽子が、28年間の平日生放送経験から「もっと続きを聞きたい」と感じさせる話し手の共通点を語る。「腹6分目」の話し方、池上彰に見る情報を凝縮する技術、ありのままを正直に出すことの大切さを具体的なエピソードで解説する。プレジデント編集長の星野孝彦が落語の録音の話やNHK記者時代の経験を交えながら考察する。 ## この回が答えていること ### 「もっと続きを聞きたい」「また会いたい」と感じさせる話し手に共通する特徴は何か? 「もっと聞きたい」と感じさせる話し手の共通点は「腹6分目」の話し方。一気に全てを話さず腹8分目にも届かない手前で止め、相手の目線や間で理解度を探りながら微調整する。説明しているようで実は「対話している」と大下は表現した。 ### 池上彰はなぜ誰もが理解できるわかりやすい解説ができるのか? 池上彰の解説がわかりやすい理由は、膨大な知識の中から最重要な点だけを厳選・凝縮して短く話すから。記者時代に限られた時間のニュース原稿を書き続け、優先順位の低い情報を捨てる技術を培った。知識の底が深いから厳選に重みが生まれる。 ### 大下陽子は毎日の生放送に向けてどのような事前準備をしているのか? 毎朝出社後、オンエアが終わるまでをプールでの潜水に例える大下は、勉強に2時間半を費やす。テーマ国の基礎から背景まで頭に入れるが、本番でその情報を直接使うことはほとんどない。全体像の地図として機能し、臨機応変な進行を支える。 ### 専門家ばかりの場で自分らしく話し、場の空気をつかむにはどうすればいいか? 「自分を飾らず、ありのままを隠さずに出す」ことが鍵。環境シンポジウムで専門家ばかりの前に「私は素人です」と正直に切り出したところ場が和んだ。ただし事前にリサーチして準備してきた姿勢が態度から伝わっていたからこそ成立した技だ。 ### 大下陽子が目指す究極の理想像は誰で、その人のどんな点に憧れているのか? 大下が理想とするのは黒柳徹子。放送50年超の今もゲストに話してもらうことに心を砕き、豊富なエピソードを持ちながら「すごいでしょ」という空気を一切出さない。「相手と一緒にその場を楽しもうとする気持ち」が「また会いたい」を生む源泉だという。 ## 本文 ## 腹6分目の話し方――説明ではなく「対話」 大下陽子はテレビ朝日でエグゼクティブアナウンサーとして28年間生放送に関わり、20年目からメインMC、その半年後には番組名に自分の名前がつく『大下陽子のワイドスクランブル』を担当している。番組では毎回テーマに合わせた識者を招き、政治・経済・事件などを解説してもらう。その経験から導き出した「もっと続きを聞きたい」と感じる話し手の共通点が「腹6分目」の話し方だ。 この道何十年という専門家が知っていることを全て一気に話すと、聞き手との理解のギャップはますます広がる。もっと話を聞きたいと感じさせる人は、腹8分目にも届かない手前でいったん止め、相手の反応を観察する。相手がキョトンとしていれば小休止して理解が追いつくのを待ち、つまずいていそうなところをもう一度説明する。「説明しているようで、本当は対話している」と大下は表現した。言葉で確認する人は少ないが、目線や間といった言葉以外のサインで理解度を探り微調整する。 星野編集長はこれを落語に例えた。スタジオで収録したテープよりも独演会のホールで収録したものの方に良い演目が多い。目の前の客の反応や空気を読みながら語り方をその場で変えているからで、その空気がテープに封じ込められているのだという。 ## 情報を凝縮する勇気――池上彰の技術 大下が「達人」と称するのが池上彰だ。池上はあらゆる知識を持ちながら、1から10まで順番に説明するのではなく、常に最も重要な点だけを絞って簡潔に話す。聴き手が「なるほど」とすっと理解でき、「なぜそうなのか」「これからどうなるのか」といった次の質問が自然に湧いてくる。 大下はその背景に記者時代の訓練を見る。テレビニュース番組は時間に限りがあるため、記者はアナウンサーが読む原稿に優先順位の低い情報を入れず、核心だけを書き切る訓練を積む。池上もその訓練で「捨てる技術」を磨いたのではないかと推察する。星野編集長もNHKで2年ほどテレビ記者を務めた経験を持ち、「30秒から最長90秒の原稿に複雑なニュースを詰め込むには、本当に大事なことだけを凝縮するしかない」と共感した。 ただし凝縮できるのは、底にある知識の量が膨大だからこそだ。知識が10ある人が1を厳選するのと、知識が2の人が1を選ぶのとでは情報の重みが全く違う。池上は今も自ら現場に足を運び、情報を集め続けている。 ## 大下陽子の2時間半の準備 大下自身の準備は徹底している。毎朝出社してからオンエアが終わるまでを「プールで潜水して、ずっと息を止めているような緊張感」と表現し、その潜水中に冷静でいられるかどうかは事前準備次第だという。現在は毎朝2時間半を勉強に費やす。当初はもっと短かったが、「15分早く出社して勉強しよう」を繰り返すうちにいつの間にか2時間半になっていた。 例えばある国の情勢がテーマなら、その国と国境を接する国、主な産業、民族・宗教の比率といった基礎から始め、今回取り上げるニュースの背景まで頭に入れる。しかしそうして蓄えた情報を本番で直接使うことはほとんどない。基礎知識が「全体像の地図」となり、「この話は誰に振ろう」「時間が足りなければこの話を削ろう」という判断を可能にする。 ## 言い過ぎない、そして素直に話す 大下は「言い過ぎないこと」を意識してきた。人前で話すと気の利いたことを言いたい、面白くしたいという気持ちが働く。しかし余計な一言が誰かを傷つけ、それまでの9割の良い話を台無しにしてしまうことがある。「一度口から出た言葉は消しゴムで消せない。言い足りない場合は後から補えるが、言い過ぎは取り消せない」というのが彼女の考えだ。 自分らしさについては、「自分を飾ることではなく、ありのままを隠さずに出すことで個性が伝わる」と気づいたエピソードを語った。急きょ登壇することになった環境シンポジウムで、専門家ばかりの会場に「私は素人です。皆さんに教えていただきながら有意義な時間にしたい」と正直に切り出したところ、場がふっと緩み参加者が受け入れてくれた。ただしこれは、素人なりに事前にリサーチし準備してきた姿勢が態度から伝わったから成立したことだ。「ベストを尽くした上で、あとは隠さずに周りに頼る」ことが自分を伝える秘訣だと大下は述べる。 ## 究極の理想像――黒柳徹子 大下が理想とするのは黒柳徹子だ。海外で1週間ともにする機会があり、食事をしながら聞いた体験談はどれも涙が出るほど面白かったという。黒柳の凄みは、テレビ黎明期からの膨大なエピソードを持ちながら「私はこんなことを知っている、すごいでしょ」という空気を一切出さないことにある。放送開始から50年を超える『徹子の部屋』でも今なおゲストに話してもらうことに心を砕き、楽しそうに聞くからゲストは調子を上げて話せる。豊富な知識と経験からの鋭い突っ込みで話を広げることも忘れない。 「大切なのは一方的に発信することではなく、相手と一緒にその場を楽しもうとする気持ち」——大下はその言葉で記事を締めくくった。星野編集長はタモリの『笑っていいとも!』を例に、「前に出ない凄さが時間をかけてじわじわと効いてくる。黒柳さんもタモリさんも悪口をほとんど聞いたことがない」と共鳴した。 ## この回の要点 - 「また会いたい」と思わせる話し手は腹6分目で止めて相手の反応を読みながら対話するように話す。一方的な発信ではなく相手との場の共同作業として話を進める。 - 池上彰のように豊富な知識を持ちながらそのほとんどを捨て、核心だけを凝縮する勇気こそが聴き手の腑に落ちる解説を生む。知識の底が深いほど厳選に重みが増す。 - 自分を飾らず、徹底した準備の上でありのままを出すこと。ベストを尽くした後に隠さず頼る姿勢が個性として相手に伝わる。