# #643 「いつでも辞められる」と思える人ほど長く働ける…苦手な同僚がいても心を壊さない人の「うまい距離の取り方」 - Show: プレジデント音声版 - Published: 2026-10-23 - Canonical: https://podc.club/episode/1525273315_6f050fbf6147.html - Audio: https://traffic.omny.fm/d/clips/a10fab0c-08e4-4ce4-abed-aeb601152bcc/fa8d9e0c-1e7b-4e5e-81c9-aebc0016b5a2/4a25f4d6-8d4f-4e62-b17e-b4e8001b0ca8/audio.mp3?utm_source=Podcast&in_playlist=2bdab59e-ba3e-4897-b598-aebc0016b5b0 - Source: この記事は、配信音声の冒頭30分ぶんを機械で文字起こしし、それをもとに編集したものです。番組の公式な要約ではありません。 産業医・竹上健二さんの記事を題材に、人間関係がドロドロな職場でも淡々と働き続けられる人が持つ「距離を調整する能力」を解説する回。30代女性Aさんのケースを通じて、ノートへの書き分け・業務ルールの設定・和太鼓の再開という実践例を具体的に紹介。編集長の星野隆彦がNHK記者時代の体験も交えてコメントする。 ## この回が答えていること ### 人間関係がこじれた職場でも元気に働き続けられる人の共通点は何か? 人間関係を良くする力が高いわけではなく、今は「諦めの境地」にいる人が多い。優れているのは悪い人間関係との距離を調整する能力で、会社以外の世界を持ち、自分の幸福を会社に預けていない点も共通する。 ### 産業医の竹上健二さんが言う「距離を調整する能力」とは具体的にどんなものか? ①出来事と自分の解釈を混同しない「頭の切り替え」、②退社後に仕事を頭から切り離す「場所の切り替え(心理的離脱)」、③趣味や家族など会社外に複数のアイデンティティを持つ「回復の場」の3つに分解できる。 ### 苦手な同僚Bさんへのストレスに悩んでいたAさんはどんな方法で改善したのか? 毎晩ノートに「事実・自分の感情・第三者の視点」を書き分ける習慣を実践。苦手なBさんとは仲良くしなくても業務が回るルールを上司に依頼して明確化した。さらに転職後に遠ざかっていた和太鼓の稽古を再開し、仲間との食事で愚痴を話す場も得た。 ### なぜ「いつでも辞められる」と思える人ほど今の職場で安定して働けるのか? 移動や転職という出口が見えないと無力感に陥りやすい。「いざとなれば辞められる」という選択肢を意識しておくことが、逆に今の職場で安定して働くための心理的余裕を生む。 ### 職場の人間関係問題は本人のセルフケアだけで解決すべきか? 本人のセルフケアと組織による環境改善は両輪で、どちらか一方だけでは意味を持たない。AさんのケースでもBさんとの業務ルール調整に上司が応じたことが解決の鍵だった。WHOのガイドラインも組織が取り除くべきリスクを明示している。 ## 本文 ## 人間関係が悪い職場でも働き続けられる人の正体 産業医として15年以上のキャリアを持つ竹上健二さんは、日本ストレスチェック協会の代表理事でもある。外資系企業を中心に社員の健康相談を受けてきた竹上さんは、「必ずしもすべての職場が快適職場ではない」と前置きしたうえで、人間関係がドロドロな職場でも淡々と働き続けられる人の共通点を語る。 そのような人たちは、人間関係を良くする力が特別に高いわけではない。多くの場合、職場の人間関係を改善しようと過去に相当な努力をしたが、今はすでに「諦めの境地」にある。彼らが優れているのは別の能力、すなわち**悪い人間関係との距離を調整する能力**だ。また、会社以外の世界を持ち、自分の幸福を会社に預けていないことも共通している。 ## Aさんのケース:ノート・ルール・和太鼓の三本柱 竹上さんが紹介するのは、30代半ばの独身女性Aさんの事例だ。転職から2年ほど経ったころ、半年前の組織変更で所属部署が変わったことをきっかけにチームの人間関係に悩むようになった。睡眠は6時間以上取れており仕事もこなせていたが、週末に一人になると翌週のことを考えて気分が塞いでしまうという。 竹上さんはカウンセリングを勧め、Aさんは会社の福利厚生でカウンセリングを利用し始めた。カウンセラーから勧められた方法は、毎晩ノートに「その日職場であった嫌な出来事(事実)」「そのとき自分がどう感じたか(感情)」「他の人ならどう捉えるか(第三者の視点)」を並べて書くというものだ。これを続けるうちに「自分の受け止め方だけが唯一の捉え方ではない」と気づいた。 それでも苦手な同僚Bさんへのストレスはなかなか消えなかった。そこで竹上さんはAさんに「仲良くなれなくても業務が回るには具体的にどんなルールが必要か」と問いかけた。答えが具体的であるほど上司も協力しやすいと付け加えて。Aさんは真剣にこれに取り組み、上司に相談した結果、AさんとBさんの間で業務上のルールが設けられ、役割分担が明確化された。現在も2人は仲良しではないが、業務は滞りなく進みストレスは大きく減ったという。 さらにAさんは、転職後に忙しさで遠ざかっていた和太鼓の稽古を再開した。稽古自体が気分転換になるだけでなく、教室の仲間との会話や練習後の食事の場で会社の愚痴を話せるようにもなった。「会社で何があっても自分にはこの仲間がいる」と思えるようになってから、少しずつ眠れるようになったという。 ## 距離を調整する3つの能力 **①頭の切り替え**:竹上さんはこれを「ポジティブ思考」ではなく「認知的な節約の技術」と表現する。「事実→解釈→自己評価」と自動的につなげてしまうと、他人の悪意のない言葉が自分の存在価値を脅かす問題にすり替わってしまう。健康的に働ける人はこの「階段の途中で足を止める」ことができる。合わない相手そのものを変えようとするのではなく、「仲良くなれなくても仕事が回る状態を作る」という一段階手前の目標に切り替えたことが、Aさんのストレス軽減の決め手だった。 **②場所の切り替え(心理的離脱)**:帰宅後も翌週のことを考え続けることは、脳にとってストレスにさらされる時間が伸びることと同じだ。竹上さんは「切り替えとは忘れる力ではなく、考える時間をこれ以上延長しない力」と言う。仮に職場での嫌な会話が1分だったとしても、帰宅後に5時間考え続ければ脳は5時間分のストレスを受け続けることになる。 **③複数の自分(回復の場)**:運動や趣味は単なる身体的効果にとどまらない。「和太鼓をする自分」「お菓子を焼く自分」「ギターを弾く自分」「家族と遊ぶ自分」など、アイデンティティを一本足打法にしないことに意義がある。職場で傷ついても、それが人生全体の否定にはならない——この感覚が「想像以上に大きな防波堤」になると竹上さんは言う。 ## 「いつでも辞められる」という安心感の逆説 人間関係に悩む職場でも健康的に働けている人の多くは、「これは自分の努力で対応できる範囲だ→上司に相談しよう→変わらなければ異動を相談しよう→そこまでいけば転職も検討しよう」という段階をあらかじめ自分の中に持っている。出口が見えないと感じると無力感に陥りやすい。だからこそ「いざとなれば辞められる」と思えている人ほど、今の職場で安定して働ける場合が少なくないと竹上さんは言う。 また竹上さんは、本人のセルフケアと組織による環境改善は「両輪」だと強調する。WHOのガイドラインでも、過重労働・裁量権の低さ・支援の不足・ハラスメントや暴力は組織が取り除くべき心理社会的リスクとして明確に挙げられている。Aさんのケースでも、上司が業務ルールの調整に応じたことが解決の鍵だった。 ## 星野編集長のコメント:映画・自然・複数の居場所 星野隆彦編集長は、NHKの記者時代に他社にスクープを出し抜かれた際の心理的プレッシャーを振り返る。「自分の失敗がみんなに迷惑をかけている」という逃げ場のない感覚は、今思い出しても気持ち悪くなるほどつらかったという。切り替えの方法として映画館を挙げ、「見始めたら止められないので、場所も変えて没入できる」と語る。 心理学では悪いことを頭で考え続けることを「ルミネーション(反芻)」と呼び、脳をストレスにさらし続ける要因になる。山・川・海などの自然に身を置くことはこれを断ち切る効果があるとされ、星野編集長は「今の都市生活はナチュラルではない。人間がずっと過ごしてきた環境からかけ離れているからこそ、自然が回復を引き立てるのでは」と考察した。家族・ペット・趣味といった「会社外の自分」を支える存在を大切にすることも、回復を早める一因になると語った。 ## この回の要点 - 人間関係を「良くしようとする」より「悪くても仕事が回るルール」を上司に依頼して作る方が、ストレス軽減の近道になる。 - 帰宅後に仕事を考え続ける「ルミネーション」は、1分の嫌な出来事を5時間分のストレスに変える。切り替えは「忘れる力」ではなく「考える時間を延長しない力」。 - 「いつでも辞められる」という出口を意識しておくことが逆に今の職場での安定につながり、趣味・家族・自然など複数の居場所がその土台になる。